銭湯

小学校のころ夏には毎年,弟と一緒に祖父母の家に預けられた.今は引っ越したが,そのころすでに少なくなってきていた汲み取り式の便所で,二間しかなく,当然風呂などなかった.今も大概だが,昔はもっと世間を知らないため,汲み取り式便所も風呂がないことも苦ではなく「そんなもんだ」と思い込んで,それはそれで楽しくしていた.夜は毎日のように銭湯にいって,帰りに祖母がアイスを買ってくれるのも楽しかった.弟と祖母と3人で並んで洗面器をもって,アイスを舐めながら帰る.田舎だったこともあって蛙がたくさん鳴いていた.
 ときには月を眺めながら,ときにはセミを拾いながら,ときには傘を差して,ときにはおばけを見たと大騒ぎしながら.
 脱線するけどそのころは女風呂にしかアイスが無くて,なんとなく,番台のおばちゃんも寛容に女風呂への侵入およびアイスの選別を許してくれていた.残念ながら当時の僕たちはアイスに夢中だったけど,もっと見とけばよかったと悔いが残る.
 そんなこともあって銭湯が基本的に好きだ.中学高校になると,さすがに夏休みごとに祖父母に預けられるようなことも無く,実家にも風呂があったので銭湯には行かなくなったが,大学に入って一人暮らしをするようになるとたまぁ〜に銭湯に行くようになった.だらだらと鼻歌を歌いながらサウナに入ったり,打たせ湯で修行とかわけのわからないことをいって喜んだりしていた.
 そんな銭湯に昨日久々に行ってきました.やっぱり大きい風呂は気持ちがよく,いろんな石鹸の混じった牛乳のような子供のような匂いが充満して,なんとなく疲れが体中から粒になって空気中に溶け出すような感じがする.体重が増えていることにびびったり,背中でお絵かきをしている人がいないか確認したりしながら,一通り体を洗い,お湯につかる.戦いはこれからだ.
 サウナに入ると,ほぼ同時にスリップストリームに入れるんじゃないかというタイミングで一人入ってきた.僕が時計をひっくり返すのを確認して黙る.なかなかのウェポンをもっているが,湿気避けなのだろう,熱い皮袋が射出口をふさいでいた.
 いやこんなことが書きたいんじゃなくて,こんな狭い部屋に二人でいれば,しばし隣人の気分になる.ちらっとみると,彼は褐色の肌をしていた.気持ちよさそうに体を揉み,屈伸運動をし,同じ5分間を耐える.
 大学にはいろんな国からの留学生がいるため国際的とはいえ,褐色の肌の人とこんな狭い密室に二人きりというのもなかなかないなぁ,と思っていた.それと同時に,何色の肌だろうと,何処の国だろうと,きっと宗教も違うだろうけど,銭湯でサウナに耐え,水風呂につかるときには,「うぅ〜〜」と何処から出すのかわからない声を上げることは同じなんだなぁ,と思った.それだけ.なんだこれ.