幼児語彙の統合的発達の研究(2)

●第一回●

  • 3章から
  • p.55

成人の文法では,格は助詞によって明示されていることが多いが,幼児の場合,助詞の出現は少し遅れる.その際も格として取る語の意味内容と動詞の意味との対応の関係,語順などが手明かりとなって意味を伝えることが出来る.助詞なしで主部と述部(即ち名詞と動詞)が結びついて文が構成され,文としての機能を果たすわけである.

つまり,幼児は文の各構成を必ずしも助詞によって理解・構築しているわけではなく,その他の要素を用いていることを示している.「幼児語彙における語順に心理学的研究(岩立1994)やSlobin & Bever (1982)の研究にもあるように,提示される言語情報から規範的な文構造を獲得しているということを支持している.

  • pp.59-66

「出す」「入れる」また「出る」「入る」について

両者ともに主格の出現は遅く,また少なかった.対象格が多かった.また「出す」では見られないが「入れる」では着点が多く・早く用いられていた.

これは,「出す」「入れる」という動詞に対する幼児の意味的・統語的理解の進み具合および関連具合を示しているのではないか?「入れる」は「出す」よりも着点の担う情報の重要性が高い,もしくは顕著性が高い.「出す」は対象格が明示的に言及されたときに対象格のある位置が起点となっているが「入れる」は起点は対象格と同時に(非明示的に)示されるが,「入れる」という行為の経路を明示的に示すことができない.
 ちと,ぐだぐだなのでまた修正する.
「入れる」は「起点(対象格の位置)-着点」という情報を示すが「出す」は「起点(対象格の位置)」のみで着点は大まかに言えばどこでもよい.このため「入れる」の着点の使用の時期および頻度が「出す」と異なっていたのではないだろうか?

両者共に主格の出現が多く・早く見られた.また,「出る」は「ウンチ」「シッコ」が,「入る」は「オフロ」が多かった.全体として身の回りの具体的なものについての表現が多く,初期には特定の具体物と結びついて使用される傾向がある.

親の用法が興味深い.即ち成人であれば「出る」「入る」を排泄や風呂以外の語と組み合わせて用いることは明らかであるが,幼児はこれをまず第一に覚え使用する.このことは何に依存しているため起こるのか?頻度・顕著性・具体性・構造の難易度か.
 成人の場合の用法(「動詞の意味用法の記述的研究」国立国語研究所報告,宮島達夫)

「出る」の用例は第一には空間の移動を表すものがあり,主体は人間で,人間が建物や部屋の外に移動することに用いられている.

  • pp.81-

「飲む」について.
「飲む」は,初出順位は30語とそれほど早くはないが,発話以後は,飲食場面でよく用いられ,また,格の使用までに時間がかかっていない点でも興味深い動詞である.それまでは,対象格(ジュースや牛乳)を指す(言及する)ことで,要求を表現していたが,初出以後はすぐに対象格および「オネーチャン」などの主格も用いている.対象の内容はほとんどが飲み物である.類義語「タベル」との誤用も「カマボコノンデル」の1例のみである.
 飲食場面での発話はほとんど相手のいる場面での発話であり,相手とのかかわりを意識して発話している.(強調の係助詞「モ」の使用)